| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-20 (Oral presentation)

DNAバーコディング計画を大学等の実習ですすめる 〜構内の雑草を対象にした東邦大での事例

石田聖二(東邦大理)

地域の人々が地域の生物多様性に関心を持つことは健全な国土を維持する上で欠かせない。そこで高校生や大学学部生の実習で生物種を同定して地域の生物相の理解を深める実習を行うことは望ましい。しかし分類学のエキスパートですら形態のみで分類することが困難な生物種も存在する。そこでDNAバーコディングが提案されている。しかしそのデータベース(DB)の構築が日本で必ずしも積極的に進展しているとは言えない。分類学のエキスパートの数が限られている上に、DB構築の貢献をすぐれた科学的研究として評価しづらいので、研究者がDB構築に取り組む意欲は薄い。結果として、生物の種同定は依然として難易度が高いままであり、地域の人々は生物多様性に対して具体的な関心を持ちづらい。これまでのDBの貢献は分類学研究として捉えられていたが、本演題はそれをショートタームの教育活動として捉え直すことの実現可能性について検証した。2014年夏に東邦大学の学部生2年生47人(分子生物学・系統分類学の予備知識がない)が2日間の日程でバーコディング実習を受講した。すでに大学構内の雑草を採集して、形態による同定のための標本を作成済みの植物断片に対して、1日目にDNA抽出およびバーコディング領域のPCRを行い、2日目に得られた塩基配列をもとに系統樹解析を行った。作業を可能な限り簡単にするために、著者は植物断片から8分間でDNA抽出する方法を開発した。受講生のほぼ全員が遺伝子解析に成功した。得られた36種のうち6種がDBに未登録であった。すなわち当実習がDBの充実に貢献することがわかった。学生は研究者と共同して新しい知を生み出すことを実感できるので、実習に意欲的に取り組みやすい。したがって、関連する分子生物学の手順や系統分類学の概念の理解も進みやすい。地域の生物多様性に関する啓発や教育としても十分に効果的であると考えられる。


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