| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-25 (Oral presentation)

外洋性さめ類の生態的特徴を考慮した漁業管理手法の有効性

*横井大樹(水研センター 国際水研), 甲斐幹彦(水研センター 国際水研)

近年さめ類に対し生物保全の社会的な要請が高まりつつある。また、資源を枯渇させない持続可能な漁業を目指す上で、適切な漁業管理を行う事は重要である。しかし、外洋性さめ類は、他の外洋性魚類と比べても資源動態の知見が乏しく、少ないデータから適切な管理手法を検討するのは難しい。

そこで、外洋性さめ類の生態的特徴を考慮した数理モデルを構築し、それを用いて漁業管理手法の有効性の検討を行った。外洋性さめ類の生態学的特徴として、性や成長段階(未成熟・成熟)によって、生息区域が異なる事が知られている。特に北太平洋のヨシキリザメ(Prionace glauca)では、高緯度域に未成熟個体と成熟雌が、低緯度域に成熟した雄と雌が分布する。また、妊娠した成熟雌は出産のため高度域に移動することも報告されている。この生態学的特徴を基に個体群を性・成長段階別に4つに分け、さらに妊娠雌を加えた5変数の差分方程式によって、数理モデルを構築した。

さめ類の生態学的特徴を考慮して、成熟魚、未成熟魚、雄、雌、全ての種類を漁獲する5つの漁業管理手法を考え、数値解析により各管理手法の有効性を検討した。パラメータの設定はヨシキリザメを想定し、大きな環境の変化(レジームシフトなど)や異なる漁獲の強さを組み合わせた4つのシナリオを考えた。それぞれの管理手法の有効性は絶滅リスク、漁獲量、資源量で比較した。その結果、レジームシフトの下で、最大持続生産量(MSY)を達成する漁獲死亡係数で漁獲した場合、雄だけ漁獲する管理手法の絶滅リスクが最も低く、漁獲量もそれほど減少しなかった。また、レジームシフトの下で漁獲圧が高い場合、成熟魚のみ漁獲する管理手法が有効であった。


日本生態学会