| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-29 (Oral presentation)

蝶の分布北限の北上と停滞におよぼす遺伝子流動の影響

*長太伸章, 角山智昭(東北大・生命), 矢後勝也(東京大・博物館), 松木悠, 陶山佳久(東北大・農), 牧野能士, 河田雅圭(東北大・生命)

生物の分布は一定ではなく、環境要因の変化やそれに対する適応などによって変化している。近年の地球温暖化においても、気温の上昇とともに多くの種が分布北限を北上させていることが報告されている。しかし、同様の環境に生息していながら分布限界は北上せず停滞していたり、逆に縮小している種も多く存在する。この要因として、局所適応が重要であると考えられる。すなわち、地域集団が気温以外の要因にも局所適応していれば、温暖化による気温変化があっても分布境界が北上しにくくなる。一方、分布域内の環境に広く適応している場合は温度変化に伴って分布境界が移動しやすくなると考えられる。そして局所適応がある場合は集団間の遺伝的分化は大きくなると予測される。

本研究では東北地方に分布北限があるチョウのうち、この数十年分布を大きく北上させているヤマトシジミ、キタキチョウ、ウラギンシジミ、ツマグロヒョウモンの4種と、それらに比べて分布域の変化がなく停滞しているヒカゲチョウ、キタテハ、コジャノメの3種を用い、次世代シーケンサーを用いてゲノムワイドなSNPを検出した。そして、それぞれの種について遺伝的集団構造を解明し、分布域の拡大の停滞と地域集団間分化の関係について検証した。

その結果、停滞している3種は地域集団間での分化を伴う遺伝的集団構造がみられたが、拡大している4種では明確な遺伝的集団構造がみられなかった。また、いずれの種でも分布北限で遺伝的多様性が低下する傾向は見られなかった。このことから、分布域の拡大が停滞している種は温度以外の要因に局所適応しているために、分布境界をより北上させることが困難であるという仮説を支持すると思われる。


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