| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-14 (Oral presentation)

東北沖地震津波後の海岸砂丘生物群集の初期遷移

*石田 孝信(近畿大学大学院農学研究科環境管理学専攻),早坂 大亮(近畿大学農学部環境管理学科),澤畠 拓夫(近畿大学農学部環境管理学科)

撹乱とは,生物の生息環境を大きく変化させ次世代の個体が移入できる場の創出を促す,生態系の構築上重要なイベントであり,規模・強度・頻度の3つのベクトルに応じて様々なタイプに分類される.他方,津波撹乱は発生頻度の低さゆえ,これまで生態学的意義について十分に議論されておらず,撹乱タイプも整理されていない.2011年3月に東北地方において大規模な津波が発生したことから,本事例を通じて津波の生態影響とその特徴を検出するために,本研究では,移動性に乏しく津波の影響を直接的に受けたと想定される地表徘徊性節足動物および植生に着目し,津波後3年間(2102~2014)におけるモニタリングの結果を報告する.岩手県北部から青森県南部の津波の被害度が異なる4つの海岸において,ピットフォールトラップおよび植生調査を実施した.調査の結果,12目36科82属108種の動物が確認された.津波後,いずれの海岸においても海浜種の個体数は時間とともに増加し,またそのほとんどが,ハマトビムシ類のような,漂着した海藻などを主な餌とする腐食性種であった.一方,非海浜種の増加は一時的であり,時間とともに減少する傾向にあった.地すべりを事例に報告しているような,撹乱後の節足動物と植生との回復の連動性は,津波撹乱では認められなかった.その要因として,当該地域の節足動物群集の優占種が腐食性で漂着有機物を餌としており,植生への依存性が低かったためだと考えられた.以上のように海浜性節足動物の一部の種の個体数は,津波後において急激に増加することが示された。したがって津波は,規模は極大型であるが,生態系をリセットするものではなく,残存した母集団から生態系が形成される撹乱,すなわち二次遷移をもたらすイベントであると定義できる.


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