| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-21 (Oral presentation)

イワナとヤマメの棲み分け理論の再考

*森田健太郎(水研セ・北水研),佐橋玄記(北大・環境院),坪井潤一(水研セ・増養殖研)

なぜ,イワナはヤマメよりも上流に棲むのか?今西(1951)は夏季水温15℃を境に優占種が変わることを指摘している.その一方で,河川勾配なども重要な要因であり,水温だけでは説明しきれないという指摘も多い.

本研究では,イワナとヤマメの分布を規定する要因を再考するため,人為的撹乱の少ない北海道の一河川において調査を行った.

河口から10km上流までに調査区を10区設け,イワナとヤマメの生息密度および物理環境を調べた.イワナは主に上流域,ヤマメは下流域を優占し,両種の比率は調査区によって5~95%と大きく変化した.種組成と有意な相関が認められた物理的環境は,水温,標高,勾配,水深,川幅,そして流速であった.もっとも相関が高かった変数は流速で,上流域は勾配が急になるが,小滝が連続するため乱流が生じやすくなり,平均流速は上流に行くほど遅かった(上流∼20cm/sec,下流∼40cm/sec).

潜水観察により,各個体が利用している微生息場所を調べた.いずれの調査区においても,イワナはヤマメよりも流速が遅い場所を利用した(イワナ∼11cm/sec,ヤマメ∼21cm/sec).さらに,観察区内の全ての魚類を電気ショッカーで除去した後に,イワナもしくはヤマメを1個体ずつ放流して調べた.単独の場合においても,イワナはヤマメよりも流速が遅い場所を利用した.

イワナとヤマメの遊泳能力を比較するため,河川内に流速65cm/secに設定したスタミナトンネルを設置し,ヤマメまたはイワナを1個体ずつ入れ,遊泳持続時間を調べた.ヤマメの方がイワナよりも遊泳持続時間が長かった.

以上の結果から,標高傾度に沿ったイワナとヤマメの棲み分けには,水温だけではなく,流速が影響していると考えられた.


日本生態学会