| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) K2-30 (Oral presentation)

一シーズンに複数回繁殖を行うのはどのような個体か?個体の質と繁殖への投資配分、繁殖のコストの関係

*乃美大佑(北大・環境科学), 油田照秋, 小泉逸郎(北大・地球環境科学)

生活史戦略において繁殖への投資配分は適応度に関わる重要な要素である。個体が利用できる資源の量には限りがあり、繁殖への投資と生存率にはトレードオフが存在するといわれている。しかし、これまで多くの研究が行われてきたが、個体レベルではこうしたトレードオフの存在はあまり確認されていない。その理由として個体の質によって繁殖のコストが大きく異なることが考えられる。このため、個体の質と投資配分の関係を知ることは個体レベルの生活史戦略を知る上で重要である。

寿命の短い動物が適応度を上げる方法として一シーズンに何度も繁殖を行う戦略(複数回繁殖)があり、様々な分類群で知られている。ところが、このような種・個体群でも1回しか繁殖しない個体も多い。適応度を上げるうえで明らかに有利と思われる戦略をなぜ全ての個体が行わないのか?

本研究では個体群の約半数が複数回繁殖を行うシジュウカラ個体群を対象に、どのような個体(ペア)が複数回繁殖を行うのか、また、複数回繁殖に伴う生存と繁殖のトレードオフが個体の質によって異なるかを5年間のデータを用いて検討した。

解析の結果、翼の長い(年齢が高い)雄のいるペアほど繁殖を早く開始し、結果として複数回繁殖率が高くなることがわかった。一方、複数回繁殖による生存率の低下は個体差を加味しても雌雄ともに検出されなかった。むしろ雌の生存率は複数回繁殖者の方が1回繁殖者より高く、また、コンディションの良い個体が高い傾向があった。

本結果から、複数回繁殖を行うのは質の高い雄のペアであり、雌にとってはペアとなる雄の質が適応度を左右する可能性が示唆された。また、複数回繁殖は生存に影響するほど大きなコストとはいえないことが示された。


日本生態学会