| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) K2-33 (Oral presentation)

根室海峡に来遊するオスのマッコウクジラの社会構造

*小林駿, 天野雅男 / 長崎大学院(水・環)

マッコウクジラ(Physeter macrocephalus)のメスは長期間続く安定的な母系群を形成するが、オスは性成熟前に出自群を離れて他のオスと血縁によらない群れをつくる。この群れは構成する個体の年齢とともに群れサイズが減少することが知られているが、個体間に長期間続く関係があるのか、群れがどのような過程を経て縮小するのかということは明らかになっていない。そこで本研究では、個体識別に基づく個体の同伴関係からオス間の個体間関係の持続性と成長に伴う変化について検討した。

2006年から2014年の夏季に北海道根室海峡で個体識別写真を撮影した。写真撮影と同時に赤外線距離計を用いて個体までの距離を測定し、この距離と撮影倍率をもとに体長を推定した。識別記録から個体対ごとの同伴指数を算出した。個体の同伴指数と推定体長との相関を調べ、成長に伴う個体間関係の変化について検討した。また、標準化遅延同伴率を算出し、同伴関係の持続性について検討した。

各個体の同伴指数の平均値と合計値は体長が大きい個体ほど低い値を示したが、同伴指数の最大値は推定体長との相関がみられなかった。このことからオスのグループでは、個体の成長に伴って他個体との付き合いが限定的になり、群れサイズが減少すると考えられた。標準化遅延同伴率は遅延時間10日頃から減少したが遅延時間が1000日を超えるまで帰無水準よりも高い値で推移した。最尤法によるモデル選択の結果、短期間で解消する同伴と数年間持続する長期的同伴の2つの関係が存在する社会構造を想定したモデルが選択された。このことから、オスのマッコウクジラにはメス間で見られるような数十年続く緊密な結びつきは確認されなかったが、少なくとも数年は続く個体間関係が存在することが示唆された。


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