| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-054 (Poster presentation)

異なる標高でのシモフリゴケの繁殖様式

*丸尾文乃(総研大・極域),内田雅己(極地研,総研大),伊村智(極地研,総研大)

陸上植物において、ある種の分布の限界付近では有性生殖の割合が減少し、無性生殖の割合が増加すると報告されている。この現象の原因の一つとして、分布の限界は種の生育に必要な環境の限界でもあるため、有性生殖の頻度が減少するのではないかと言われている。本研究では、温度、生育可能期間、紫外線などの環境要因を包括した環境傾度として標高を捉え、標高に沿って蘚苔類の繁殖様式(繁殖に関わるパラメーターの値)は変化するという仮説を立てた。

仮説を検証するために標高に沿って、①胞子体形成頻度②性比③植物体ごとの花序数と配偶子嚢の数・サイズ・成熟度の3つの繁殖パラメーターの変化を調べた。調査地は富士山北斜面の標高2400m~3700mとし、標高100mごとにサイトを設置した。本研究では、雌雄異株の蘚類であるシモフリゴケ(Racomitrium lanuginosum (Hedw.) Brid.)を調査対象種とした。各調査地で地表面温度を計測し、シモフリゴケを10群落採集した。採集したシモフリゴケ群落は、顕微鏡下で解剖し、造精器を形成している植物体をオス、造卵器、胞子体を形成しているものをメス、配偶子嚢を形成していないものを無性と区分し、①~③の各パラメーターを測定した。

①胞子体形成は、標高3200m以下に限られていた。②性比は、標高と相関を示す傾向は確認できなかった。③オスでは、花序数と造精器数は標高の上昇に伴って減少傾向が確認できたが、サイズや成熟度に傾向は見られなかった。メスでは、全てのパラメーターで傾向は確認できなかった。

これらのことから、標高3200m以上に胞子体形成が確認できないのは、オスの有性生殖器官の形成数の減少が影響している可能性が示唆された。


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