| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-069 (Poster presentation)

直流高電圧マーキングによる熱帯樹木の成長周期の検出

*中井渉(京大院・農),岡田直紀(京大院・地球環境学堂)

熱帯地域においては樹木に目に見える明瞭な成長輪構造が形成されないことが多い. このような地域においては, 温帯地域のように樹木年輪解析を用いた古気候や林分の復元を行うことが困難である. 本研究では, 主に直流高電圧を用いた形成層へのマーキング及び酸素安定同位体比分析の2つの方法により, 木部肥大成長の周期を検出することを目的とした.

タイのサケラート造林ステーション内の人工林3か所, 天然林2か所において, 2011年から2013年にかけて, 17種36個体に対して500 V直流電圧による5回のマーキングを行った. その後2013年8月及び2014年2月に, 成長錐を用いて直径5 mmのコア試料を採取した. 20–30 μmに切り出して染色した木口面切片について光学顕微鏡観察を行った後, 半径方向に50 μmの厚さでコア試料を切り分け, 一つおきに酸素安定同位体比分析を行った.

光学顕微鏡観察を行った試料のうち, Garcinia cowa, Celtis timorensis, Hopea ferrea について, マーキングによると判断できる薄壁の木部繊維と道管, 異形の柔細胞などが接線方向に並んでおり, この異状組織に基づいて複数の樹種・個体で木部の形成時期を推定することが出来た. G. cowa では5回すべてのマーキングが確認されたが, 他の樹種では確認できない場合があり, 感受性には樹種や時期による違いがあると考えられた. 上記の3個体について酸素安定同位体比分析を行った結果, G. cowa, C. timorensisの2個体について周期的な変動パターンが観察された. マーキングからこれらのパターンの年周期性が確認され, 調査地の気候下では酸素安定同位体比が年輪の代替になり得ることが示唆された.


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