| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-093 (Poster presentation)

乾燥ストレス下の匍匐性樹木の樹体と土壌間の水動態が水同位体分布に及ぼす影響

*青木万実,松尾奈緒子(三重大院・生資),佐藤佳奈子(岡大・農),楊霊麗,三木直子(岡大院・環境)

乾燥地植物には主幹から地下水面近くまで主根を伸ばし,匍匐枝から土壌浅層に不定根を出す樹形を持つものが多い.本研究では土壌浅層が乾燥した際の樹体内と樹体-土壌間の水動態の解明を目的とし,臭柏(Juniperus sabina Linnaeus)の苗木4個体を対象とした重水トレーサー実験を行った.苗木の主根と不定根を別のポットに分けて植栽し,不定根側のみ灌水を停止して土壌含水率が0近くになった後,主根側に7日間重水を与えた.その後苗木を解体し,樹体内の水や土壌水の酸素安定同位体比(d18O)の分布を測定した.3個体では匍匐枝基部と先端の枝内水のd18Oは重水のd18Oに近かった.また,不定根内の水および不定根側の土壌水のd18Oは,重水の影響を受けていた匍匐枝内の水のd18Oに近かった.これらのことから,土壌浅層の乾燥により不定根から吸水できない場合でも主根からの吸水によって匍匐枝先端まで水が供給されること,主根から吸収した水が不定根を介して乾燥した土壌浅層へ再分配されることが示された.一方,残りの1個体では匍匐枝基部の枝内水のd18Oは重水の値に近かったが,不定根内の水と匍匐枝先端の枝内水のd18Oは重水の影響を受けていなかった.これより,主根から吸収した水は主根と不定根の間にある枝葉へは供給されていたが,不定根と匍匐枝先端までは供給されていないことがわかった.上述の3個体の匍匐枝基部と先端の葉は日中蒸散していたことから枝から葉への水供給はあったと考えられるが,匍匐枝基部と先端の葉内水のd18Oは枝内水の値よりも低かった.この理由として,気温と相対湿度より夜露が発生していたと推定されることから葉から露が吸収された可能性や葉内の水がすべて枝から供給された水によって入れ替わるのには時間がかかる可能性が考えられる.


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