| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-161 (Poster presentation)

イワカガミ属における生育地隔離と遺伝的隔離の対照性

*東広之(京大・院・人環), 池田啓(岡山大・植物研), 瀬戸口浩彰(京大・院・人環)

生物の種分化や集団分化において、物理的距離は交配を制限する要因だと考えられている。一方、生き物にとって、自身に適した気候環境に生育することは、生存を左右する条件である。同一気候環境に生育できないような集団間(種間)では、交配の機会が減少するため、気候環境の違いに応じた遺伝的分化が生じる可能性がある。日本列島の気候環境において、降雪の多い日本海側と冬季に乾燥する太平洋側の違いは顕著である。本研究では、日本固有属であるイワカガミ属(Schizocodon)植物を題材として、日本海側と太平洋側の気候環境の違いが、生物の遺伝的分化の形成・維持過程に貢献しているか否かを検証した。まず、景観遺伝学的手法によって、物理的距離や生育地の標高の違いではなく、気候環境の違いが遺伝距離と有意に関連していることが明らかになった。特に、冬の降水量(降雪量を含む)が遺伝距離と有意な相関をもっていたので、イワカガミ属の遺伝的分化には、冬季降水量が大きく貢献していたことが示唆された。次に、生育地隔離の程度を推計すると、イワカガミと広義ヒメイワカガミの生育地隔離は大きく、ヒメイワカガミ変種内の生育地隔離は小さかった。集団動態モデル(IMモデル)で明らかとなった遺伝子流動の程度と比較すると、遺伝子流動が大きいときに生育地隔離は小さいという傾向があった。最後に、集団動態モデルにより、種分化時に遺伝子流動がなかったことが示されたので、イワカガミ属の種分化は異所的種分化であることが支持された。以上のことは、イワカガミ属における遺伝的分化には、地理的要因ではなく、日本海側と太平洋側の冬季降水量の違いが影響を与えていることを示しており、生育地の選好性が種の真正性の維持に寄与していることを示唆している。


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