| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-172 (Poster presentation)

テンノウメ属小笠原産固有種の乾燥適応による形質分化に関するRAD-seq法を用いた遺伝・環境要因の解明

*海野大和,井鷺裕司(京大院・農・森林),石田厚,才木真太朗,永野惇,工藤洋(京大・生態セ)

小笠原諸島の乾燥した森林に生育するテンノウメ (Osteomeles) 属2種は、乾燥適応に関連した連続的で多様な形質多型を示す一方、種間の明瞭な遺伝的分化は見られず同種と見なすことができる。本研究では、小笠原産テンノウメに見られる種内レベルの形質多型に対する環境要因 (乾燥条件) と遺伝要因 (遺伝構造と形質関連遺伝子の有無) を解析することで、小笠原諸島の乾燥地における本種の適応放散プロセスについて明らかにした。東京都小笠原村父島及び母島に生育するテンノウメ96個体を用いて、次世代シーケンサを用いたRAD-seq法によるゲノムレベルのSNP (一塩基多型) 検出、多型のある6形質 (樹高、葉のトリコーム密度、葉面積、LMA (葉面積当たり乾重)、葉の円形度、複葉数) の測定、乾燥指標として葉の水ポテンシャル測定 (湿潤期/乾燥期×夜明け前/日中の4回) を行った。RAD-seq法により検出された3,276座のSNPに基づくSTURUCTURE解析の結果、父島―母島間の明瞭な遺伝構造と父島内の地理的に連続した遺伝構造が見られた。形質と遺伝子型の相関を検出するGWAS解析の結果、樹高と関連する SNP (p = 1.3×10-5) 及びトリコーム密度と強く関連する SNP (p = 9.7×10-8) を1座ずつ検出し、トリコーム密度の多型に関連する機能遺伝子の存在が支持された。また、潤期水ポテンシャル及びトリコーム密度については、父島内の連続的な遺伝構造との相関が見られた。以上より、父島産テンノウメではトリコーム密度に関連する狭い遺伝子領域に対し、主に湿潤期の乾燥条件に沿った自然選択圧による適応放散が進み、トリコーム密度に沿ったゲノム全体の遺伝構造が形成されていると考えられた。


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