| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-183 (Poster presentation)

福島第一原発事故により放出された放射性セシウムの森林生態系における生物動態

*鈴木隆央,宮田能寛,村上正志(千葉大・理),石井伸昌(放医研),田野井慶太郎,広瀬農(東京大・農),大手信人(京都大・情報)

2011年の東日本大震災により福島第一原発事故が発生し、大量のセシウム137(137Cs)が放出された。本研究では、森林に降り注いだ137Csが食物網を通して生物間を移行する経路、栄養段階を通じた生物濃縮の有無、Csと類似元素の挙動との相互関係を明らかにすることを目的とした。

2012–2013年と継続して福島県伊達市の森林と河川で生物サンプリングを行い、137Cs濃度と窒素安定同位体比を計測した。リターにおいて特に高濃度の137Csが観察され、腐植食者や捕食者では比較的高い値がみられたため、腐食連鎖が主な移行経路になっていることが明らかになった。また、137Cs濃度と窒素安定同位体比の関係から、生物濃縮は起きていないことが示された。このような傾向は2013年も変わらなかったが、上位の栄養段階への137Cs移行が減少していることが示され、137Csがより強く土壌等に固定されている可能性が示唆された。

Cs類似の元素としてカリウム(K)、安定同位体セシウム(133Cs)の濃度をICP-MSまたはICP-OESにより計測した。その結果、137Csと133Csの挙動は区別されず、既に生態系の中で混合されていることが示唆された。また、137CsとKの間に関係性は見られず、これらの動態はそれぞれ独立であることが示された。

これらの結果を総合し、動植物を含めた森林全体の137Cs量を推定すると、全体の137Csの約74–83%をリターと木本の樹皮が占め、動物と植物の生葉での現存量は少なく、多くの137Csが固定されていることが示唆された。しかし、全体の約13–19%は木本の枝葉が占めるため、樹木内での137Cs輸送も無視できない。


日本生態学会