| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-027 (Poster presentation)

隠岐油井の池の湿地植生の現状と過去30年間の変遷

井上雅仁(島根県立三瓶自然館)

島根県の隠岐諸島にある油井の池は,円形の凹地に成立する池沼で,ほぼ全域が湿性植物により覆われた低湿地となっている.池の中央部には,植物遺体が堆積した浮島状の地形がみられ,特異な景観を呈している.池内では,絶滅危惧種であるミクリやスジヌマハリイなどの湿性植物が確認されており,湿地性動植物の生息場所としても貴重な環境となっている.一方,当地の植生については,1970年代に植生調査が行われ,成立する植物群落が報告されているが,その後の研究はほとんどなく,現在の状況やその変遷については不明である.そこで,現在の湿地植生の状況を把握するとともに,既存の研究と比較することで約30年間の植生変遷について明らかにすることとした.

現在の植生については,植物社会学的な調査手法により,1m四方の方形区を設置し植生調査を行うとともに,植生図の作成を行った.1970年代も,同様な調査方法により植生調査と植生図の作成が行われているため,同結果との比較により,30年間の変遷を検討した.

現在成立している植物群落は,常在度表を作成した結果,エゾミソハギ-ミズオトギリ群落,その下位区分単位であるススキが優占するススキ下位単位など,5つの植物群落に区分された.これらの分布は,池中央部の浮島状地と,その外周の同心円状の部分とに大別でき,その分布の違いには,微地形の違いとそれに伴う水深の違いが影響していると考えられた.

1970年代からの変遷については,浮島状地を中心に同心円上に植生分布がみられた点では,現在の状況と同様であったが,その配置や種組成には変化がみられた.とくに1970年代の池中央部の浮島状地は,抽水植物や湿性植物が主な生育種であったが,現在はススキの優占する範囲が広くみられ,乾燥化が進んでいることが示唆された.


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