| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-042 (Poster presentation)

桑ノ木台湿原の花粉分析に基づく完新世後期の“鳥海ムラスギ”の変遷

*池田重人, 志知幸治, 岡本透(森林総研), 林竜馬(琵琶湖博)

秋田地方では、県北部を中心とする豊富な天然スギ資源を背景として古くから林業が発達してきたが、県南部における天然スギの分布は一部に限られている。そのうち鳥海山北麓に生育する天然スギ群落は“鳥海ムラスギ”として知られ、現在は群落保護林や遺伝資源保存林に指定されている。こうした県南部の天然スギ群落がどのような過程を経てきたかを明らかにするために、スギ群落の近傍で採取した堆積物試料の花粉分析を行い、周辺植生の変遷を調べた。

分析試料は、鳥海ムラスギ天然林に隣接する桑ノ木台湿原で採取した。これまでに同湿原で行われた調査の報告書に基づき、泥炭層が最も厚く堆積している湿原西側の地点において深さ300cmまでの試料を採取した。試料の放射性炭素年代の計測結果は、深さ273cmにおいて約13300calBPであり、この堆積物底部の年代は晩氷期まで遡ることが明らかになった。この発表では、晩氷期以降の森林変遷を概観したうえで、とくに堆積物上部の完新世後期の時代に焦点をあて、この地域のスギの変遷について議論する。

花粉分析結果の概要は次の通りであった。晩氷期にはカバノキ属が優勢で亜寒帯針葉樹もみられた。後氷期になるとカバノキ属は急減してブナが優勢となった。スギの増減による変動はあるものの、ブナは後氷期を通じて優勢であった。スギは、晩氷期以降低率で推移していたが、約4000年前以降急速に勢力を拡大して優勢となり、約2000年前~1000年前の時代は圧倒的に優勢であった。その後は減少したが、表層になると再び優勢となった。約1000年前以降のこうしたスギの増減には、土地利用や植林などの人間活動が影響しているものと考えられる。


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