| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-045 (Poster presentation)

ヤクシマザル糞内にあるアコウ種子の遺伝的多様性

*金谷整一(森林総研九州)・大谷達也(森林総研四国)

アコウ(Ficus superba var. japonica)は、台湾や中国南部、琉球列島から本州紀伊半島まで自然分布するクワ科イチジク属の樹木である。アコウは、「絞殺し植物」といわれるように宿主に着生する特異的な生態的特性とともに、サル等のほ乳類や鳥類等の餌資源である。分布北限域にあたる屋久島では、琉球列島の他の島嶼と比較して、成木の分布密度が高く、遺伝的多様性も高かった。このことは、屋久島には他の島嶼には分布しないサルの存在が影響していると考えられ、本報告では、屋久島西部地域においてサルのフン内に含まれる種子の遺伝的多様性を評価した。採取したフンは、実験室に持ち帰りフン毎に播種して発芽させ、その実生を遺伝解析に供試した。用いた遺伝マーカーは、アコウで開発した核マイクロサテライトマーカー16遺伝子座とした。

解析の結果、フン毎の実生の遺伝的多様性は、採取日によりバラつきがあり、いずれも成木集団の多様性より低かった。フン毎の実生集団は採取日によりグループ化され、それらの遺伝的分化度は高かった。これらのことは、屋久島におけるアコウの結実時期が、1)冬にだけ大量、2)初夏から秋に少量、3)季節に関係なくランダム、の3タイプに分化しており、年間を通じた結実を行うアコウ個体群のなかで、結実時期に対応した遺伝的分化があるのかもしれない。また成木集団にはない対立遺伝子を保有している実生があった。このことは、ポリネーターのコバチ類やサルの広域移動による調査地域外からの遺伝子流動を示唆する。サルによる大量かつ広範囲の種子散布は、屋久島におけるアコウの遺伝的多様性の維持に大きな役割を果たしていると考えられる。


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