| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-070 (Poster presentation)

北極ツンドラ湿地生態系におけるコケの光合成

*内田雅己(極地研・総研大), 増本翔太, 神田啓史(極地研), 中坪孝之(広島大院・生物圏)

北極、ツンドラ域の湿原(コケツンドラ)は、植物量が多く、有機物も多く堆積しているため、ツンドラ域の炭素循環において重要な役割を担っていると考えられる。本研究では、コケツンドラの炭素循環過程を明らかにする一環として、優占しているコケ植物の光合成特性を調査したのち、生産量を推定した。

調査地は、北緯78°にあるノルウェー・スピッツベルゲン島・ニーオルスンのコケツンドラとした。本調査地にはCalliergon属、Paludella属、Sanionia属などのコケが優占しており、夏には表面から30cm程度の深さまで融解する。2013年および2014年の7-8月に、調査地からコケをサンプリングして実験室に持ち帰ったのち、通気法を用いて、温度-光合成、温度-呼吸および光-光合成の関係を調査した。それぞれの関係を回帰式で数式化するとともに、無雪期間の温度と光のデータから、純生産量を推定した。

6月中旬から9月中旬までの無雪期間における1平米あたりのコケの純生産量は約40gCと見積もられた。同地域の乾燥した場所における無雪期間のコケの純生産量は1平米あたり平均7gCと見積もられており(Uchida et al., 2002)、コケツンドラにおけるコケの純生産量は乾燥地よりもかなり多いことが明らかとなった。この要因として、乾燥地では降雨のない日には、コケは乾燥して休眠状態となり、ほとんど光合成をしていないのに対して、コケツンドラでは、常に水が供給されることから、無雪期間を通して光合成生産が可能なことが影響していると考えられた。


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