| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-088 (Poster presentation)

可愛い子にどれだけ旅をさせるか:アリ散布植物2種におけるパートナー選択の適応意義

田中弘毅*(鹿児島大連農),徳田誠(佐賀大農)

動物を利用して種子を散布する植物は、同じ場所に生えていても多かれ少なかれ散布者を違えており、散布者をめぐる競争の回避や、空間的な住み分けに寄与している可能性があるが、その理由はよく分かっていない。

散布された子植物に対し、同種成株は正負両面の影響を及ぼしうる。同種成株が子に負の影響を及ぼすときほど、植物は同種成株と子の接近を避けるために散布距離の長い動物に特殊化しているのかもしれない。本研究では、アリを介して種子を散布する2種のスゲ(ヒカゲスゲ、モエギスゲ:カヤツリグサ科スゲ属)を対象に、この可能性を検証した。2種の間には散布者の種構成に関わる形質に違いがみられ、ヒカゲスゲのもつ種子形質や結実時期は、モエギスゲと比べ、散布距離の長いアリ(長距離散布者)による散布を促進する。

野外観察から、長距離散布者のクロヤマアリは短距離散布者のオオズアリと比べ、同種成株から離れた場所に種子を散布することが判明した。長距離散布者による同種成株からの隔離が子に及ぼす影響を評価するため、成株から30cm離して植えた場合(短距離散布区)と、60cm離して植えた場合(長距離散布区)とで、幼株のバイオマスと結実率、種子重量を比較した。移植から1年後、ヒカゲスゲ幼株のバイオマスと種子重量はいずれも長距離散布区で増加したが、モエギスゲ幼株ではそのような傾向がみられず、バイオマスはむしろ長距離散布区の方で低下した。さらに、モエギスゲでは、結実率が長距離散布区で減少した。これらの結果は、同種成株が子に負の影響を及ぼす植物ほど長距離散布者に特殊化するという予測を支持するとともに、対象植物のパートナー選択が、競争能力や繁殖様式とともに進化してきたことを示唆する。


日本生態学会