| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-108 (Poster presentation)

殺菌剤を樹幹注入したアラカシへのナラ菌の接種

*衣浦晴生(森林総研関西),所 雅彦(森林総研),久保慎也(鹿児島県森技総セ),猪野正明・廣田智美(サンケイ化学)

近年、ナラ類の集団枯死現象は全国的に広がっており、カシノナガキクイムシの加害を受けて枯死する被害樹種は、これまでのミズナラやコナラなどの落葉ナラ類だけでなく、スダジイやマテバシイ、アラカシなど常緑のシイ・カシ類にまで及んでいる。そのため、常緑カシ類の枯死被害対策として、ナラ類で枯死予防効果が確認されている殺菌剤をアラカシに樹幹注入して枯損防止試験を行った。また、事前に殺菌剤を樹幹注入したアラカシへのナラ菌接種試験も行った。薬剤はウッドキングSP(通常区)、および高濃度殺菌剤KW-06(高濃度区)を使用し、試験は鹿児島県出水市の常緑広葉樹二次林で行った。枯損防止試験は2013年と2014年に行い、ナラ菌接種試験は2013年12月に殺菌剤樹幹注入を行った後、2014年4月にナラ菌を接種して50日後に伐倒し、接種部位の変色状況の調査や菌類の分離等を行った。その結果、枯損防止試験では2013年、2014年ともに枯死の発生がほとんど無く、殺菌剤注入区・対照区ともに枯死は発生しなかった。また葉色の変化など薬害と見られる症状は両薬剤ともに全く発生しなかった。次にナラ菌の接種試験では、薬剤を注入していない対照区と比較して、ナラ菌による材の変色面積が少なく、変色抑制効果が見られた。ナラ菌の分離試験でも変色面積と同様の傾向が得られ、変色面積はナラ菌の分布を表すと考えられた。さらに、ナラ菌を接種した部位の薬剤濃度とアラカシ辺材の変色量との間には負の相関が見られたことから、変色量の違いは注入された薬剤が分散している部位でナラ菌の拡大を抑制していることが原因と思われた。これらの結果より、ナラ類で登録されているナラ枯れ予防樹幹注入殺菌剤は、アラカシの枯死予防にも効果があると考えられた。


日本生態学会