| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-109 (Poster presentation)

熱帯降雨林における土壌栄養の標高変化に伴う外生菌根のバイオマスと酵素活性の変化

岡田慶一・北山兼弘(京大農・森林生態)

熱帯林生態系の多くはリン制限下にあるため、樹木のリン獲得に外生菌根菌が大きく寄与していると考えられてきたが、その実態はほとんど明らかにされていない。本研究では、外生菌根バイオマスおよび菌根菌の有機物分解酵素活性と土壌栄養の関係を明らかにし、熱帯における外生菌根菌の栄養獲得能とその役割を考察した。マレーシア・キナバル山の熱帯山地および低地に位置する、リン可給性の異なる原生林5プロットで調査を行った。各プロットで森林面積当たりの外生菌根バイオマスおよび菌根表面積密度を測定するとともに,易分性有機態炭素、窒素およびリンの各分解に関わる外生菌根菌の細胞外酵素活性を測定した。酵素活性は菌根チップを用いて菌根表面積あたりの活性として評価し、野外と同じ温度・pHにおける酵素の実活性を測定した。外生菌根バイオマスおよび酵素活性はプロット毎に平均値を求め、それらと可給態リン現存量との関係を比較した。その結果、外生菌根バイオマスおよび菌根表面積密度は、いずれもリン可給性との間に相関は見られなかった。対照的に、外生菌根菌の酵素活性は、いずれの酵素もリン可給性が最も低いプロットで最大の活性を示した。さらに、菌根の表面積密度から換算した森林面積当たりの酵素活性についても、リン可給性の低いプロットで最高値を示した。このように、外生菌根菌の有機物分解能はリン可給性の低い林分で高まっており、菌根菌がリン獲得能を高めることによってリン欠乏に適応していることが示唆された。この傾向は同プロットにおける樹木細根のリン酸分解酵素活性の傾向とも一致しているが、菌根菌ではさらに、有機態炭素および窒素の分解酵素活性も同調して上昇していた。以上のことから外生菌根菌は、リン可給性の低下した熱帯林生態系におけるリン循環に対して重要な役割を果たしている可能性が示された。


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