| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-178 (Poster presentation)

チャバネアオカメムシの必須共生細菌の多型はいかにして生じたか?

*細川貴弘(九大・理),石井佳子(産総研),深津武馬(産総研)

成長や繁殖に必須な共生微生物を体内に保持し、親から子への垂直伝播によって維持している昆虫は多い。このような共生系においては、宿主昆虫と共生微生物の間の共種分化と共進化によって各宿主に種特異的な共生微生物が進化しているのが一般的である。ところが我々はチャバネアオカメムシの必須共生細菌には著しい種内多型が存在するという前代未聞の現象を発見した。本講演ではこの共生細菌多型の形成過程と維持機構を解明するためにおこなった一連の飼育実験について報告する。まず、これまでに見つかっている6タイプの共生細菌の生物的機能に違いがあるかどうかを明らかにするために共生細菌の入れ換え実験をおこなったところ、共生細菌を入れ換えたカメムシも正常に成長・繁殖した。したがって6タイプの共生細菌は同等の生物的機能を持つと考えられた。次に、共生細菌に近縁なPantoea属の自由生活細菌(土壌から単離されたP. dispersaとヒトの傷口から単離されたP. agglomerans)をそれぞれカメムシと共生させたところ、驚くべきことに宿主カメムシは正常に成長・繁殖した。この結果は、外環境中に生息するPantoea属の自由生活細菌の一部もカメムシの共生細菌と同等の生物的機能を持つことを示している。カメムシの生息地の土壌細菌群集の解析から、6タイプの共生細菌のうち少なくとも3タイプは土壌中に自由生活細菌として存在していることが明らかとなった。以上の結果から、外環境中の自由生活細菌がカメムシ体内に侵入し、元の共生細菌と繰り返し置き換わることで共生細菌の多型が生じたと考えられた。昆虫類の必須共生微生物の起源を示唆する重要な発見である。


日本生態学会