| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-187 (Poster presentation)

フジツボ類の幼生着生フェロモン遺伝子における正の自然選択の検出と加速進化遺伝子の探索

*頼末武史(北大・厚岸臨海), 井口亮(沖縄高専)

フジツボ類は潮間帯から深海底に至る多様な海洋環境に生息する甲殻類である。成体の移動能力を欠くフジツボ類では、ノープリウス幼生期に移動分散し、キプリス幼生が着底場所の環境を探り、好適な場所に着底する。フジツボ類は近隣個体と交尾をして子孫を残すため、同種個体から放出されるタンパク質性の着生誘因フェロモンが種特異的にキプリス幼生の着生を誘因し、コロニーを形成することが知られている。発表者らのこれまでの研究により、着生誘因フェロモンのアミノ酸配列には種間変異が多く蓄積している部位があり、この変異蓄積部位が同フェロモンの種特異性を創出していると示唆されている。着生誘因フェロモンの特異化に伴う生息場所選択性の進化が種分化の初期過程の基盤となっている可能性も考えられる。今回私たちは、フジツボ類5種の付着誘因フェロモン遺伝子塩基配列情報を用い、同フェロモン遺伝子が正の自然選択を受けているかどうかを、非同義置換率(dN)/同義置換率(dS)に着目した解析を行うことで検証した。解析にはソフトウェアPAMLに実装されているcodemlを用いた。その結果、フェロモンのアミノ酸配列のうち5つのアミノ酸サイトで有意な正の自然選択を検出した。また、そのうちの3サイトは変異蓄積部位に存在していた。この結果は、同フェロモンの適応的な変異がフジツボ類の種分化過程に関連していることを示唆する。さらに、フジツボ類2種のESTデータを用い、各遺伝子に対しdN/dN解析を行うことで、正の自然選択を受けてきた遺伝子(加速進化遺伝子)の網羅的探索を行っている。本研究の進展により、多様な海洋環境に生息するフジツボ類における適応進化の分子基盤の解明につながると期待される。


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