| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-077 (Poster presentation)

海を越えてやってきたウスバキトンボの摂食と産卵

*市川雄太,渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

熱帯に広く分布するウスバキトンボは、我が国において、春になると南方から海を越えてやってきた成虫が観察され始め、夏から秋にかけて個体数が急増する。摂食活動は開放的な草地の上空で行なわれることが多く、しばしば数百を超える集団で摂食している姿が観察されてきた。産卵活動は水田や池、学校プール、一時的に形成された水域などで行なわれ、1回に1000卵産下することもあるという。これまで、本種はr-戦略者で、多産とみなされてきたが、摂食量と卵生産の関係は明らかにされてこなかった。つくば市において、早朝、摂食活動を開始した直後の繁殖齢に達した雌を捕獲し、室内で水のみを与えて飼育し、24時間毎に排出糞量を測定した。捕獲後24時間で排出した糞は約3㎜×0.7㎜の大きさの茶褐色で、平均30粒だった。合計の乾燥重量は8.00㎎となった。これらの全ての粒には、前日に摂食した小昆虫由来と思われるクチクラ片が多数観察された。しかし、捕獲後1日以上経ってから排出した糞は赤褐色の小さな粒となり、クチクラ片は観察されなかったので、消化管内の不消化物は24時間以内に全て排出されてしまったと考えられる。消化管内を空にさせた雌にヒツジキンバエ1頭(乾重で5.42㎎)を与えると、給餌後24時間に4.51㎎(乾重)の糞を排出した。野外で捕獲した雌が捕獲後24時間で排出した糞量(8.00㎎)と比較したところ、雌は1日に約14㎎(乾重)の餌を摂食していることが分かった。この量は小昆虫に換算すると140頭になる。捕獲直後、強制産卵により体内の成熟卵を全て放出させた雌を室内に持ち帰り、水のみを与えて24時間後に再び強制産卵を行なったところ、平均800卵産下した。したがって、前日に摂食した餌の栄養を用いると、1回の産卵エピソードで産下する卵の大部分を生産できると考えられた。


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