| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-087 (Poster presentation)

移動能力と交尾に関する形質の関係~コクヌストモドキの移動シンドロームに注目して~

*松村 健太郎,宮竹 貴久(岡山大学大学院・環境生命)

動物の移動分散は、様々な形質(例えば行動・生理・生活史・外部形態など)に影響を及ぼす。これは移動シンドロームと呼ばれる。同種の他個体との遭遇頻度は個体の移動能力に依存するため、移動能力は繁殖戦略とも関連するだろう。私たちはコクヌストモドキの歩行移動距離に対する人為選抜を15世代にわたって行い、遺伝的に移動距離の長い系統(ロング)と短い系統(ショート)を確立させた(繰り返しは3系統)。そして、各選抜系統の雄の交尾成功を比較したところ、ショートの雄に比べてロングの雄において有意に交尾成功が増加した。また、受精成功を比べてみたところ、ロングよりもショート雄の方が有意に受精率を増加させた。これらの結果により、雄の移動能力・交尾成功・受精成功の3つの形質がトレードオフの関係にあることが示唆された。

すなわち精子優先度を増加させるために、交尾時間を長くする雄が進化的には有利であるが、雌にとって長時間の交尾はコストとなると推察できる。したがって、適応的な交尾時間は、雌雄間で対立の関係にあるかもしれない。コクヌストモドキの雄は雌にマウントした状態で交尾を行うが、雌が歩行によって移動すると雄はしばしば雌から振り落とされてしまう。本種では雄の脚はロングよりもショート系統の方が長い(2014年動物行動学会ポスター発表)。脚が長いことは、雌から振り落とされないように身体をしっかりと雄が掴むことを可能にするため、交尾時間を延長させると考えた。そうであれば、ショート雄の長い脚は、性拮抗的選択により進化した形質である可能性が示唆された。本研究ではこの仮説を検証するために、よく動き回る雌とそうでない雌を交尾相手とした時の各系統の雄の交尾時間を調査し、ショート雄の長い脚が対抗適応の結果なのかどうかを考察する。


日本生態学会