| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-090 (Poster presentation)

鳥取市内に生息するイノシシの糞の炭素・窒素安定同位体比

*魚住拓摩(京都大院・情), 小山里奈(京都大院・情)

近年、全国でイノシシによる農作物被害が深刻であり、イノシシの適切な管理が急がれている。動物の生態に関する重要な情報の一つである食性は、体組織の炭素・窒素安定同位体比から推定が可能であることが知られており、測定する体組織に体毛を用いることが多い。しかし、野生動物から自然条件下で体毛を採取することは困難である。炭素・窒素安定同位体比を用いて野生動物の食性を推定する場合に、体毛の代替となる試料として、食性の影響を強く受けると考えられる糞が挙げられる。また一方で、イノシシの生態は未解明な部分が多い。例えば行動圏については様々な議論がある。行動圏の情報を得ることは、周辺作物の維持管理に重要な知見となる。そこで本研究では、野生イノシシが摂取した餌が消化管内を通り排泄されるまでの炭素・窒素安定同位体比の変化について、地域差があるかを調べた。2013年9月から2014年8月に鳥取県鳥取市内の10地点(下味野、浜坂、宮谷、長谷、用瀬、覚寺、河原町、滝山、服部、湯所)で捕獲された計30個体のイノシシから胃・小腸・直腸の内容物、および体毛を採取し、炭素・窒素安定同位体比を測定した。炭素安定同位体比はすべての部位において -32 − -22‰の範囲にあることがわかった。これはイノシシの餌がC3植物由来であることを示唆している。窒素安定同位体比については、同一の地点における別の個体でも変動幅が大きかった。胃内容物の窒素安定同位体比について最も高い値を示した地域は宮谷であったが、小腸・直腸の内容物および体毛の窒素安定同位体比について最も高い値を示した地域は滝山であった。滝山の個体に関しては他の地域よりも窒素安定同位体比の高い餌を食べていることが示唆された。以上の結果から、イノシシが対象とした10地点間を広く移動している可能性や、イノシシの種内でも栄養段階の異なる餌を食べている可能性がある。


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