| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-122 (Poster presentation)

テナガショウジョウバエの雄は社会的条件によって求愛戦術を使い分ける

*瀬戸口栞(東京大・院・農),高梨琢磨(森林総研),石川幸男(東京大・院・農),松尾隆嗣(東京大・院・農)

条件依存的な代替配偶戦術は、変化する環境下で適応度を最大化する効果があり、多くの動物で観察される。例えば、ある種のクモの雄は捕食者が存在すると求愛ディスプレイをせずに強制的な交尾を行うことが知られている。捕食者や寄生者に代表される他種の存在だけでなく、求愛シグナルを傍受して雌を横取りしようとする同種雄の存在も配偶行動に影響を与える可能性がある。しかしながら、雌をめぐるライバル雄の存在下で求愛行動を減少させる例は知られているものの、ライバル雄の影響を受けないような求愛方法に切り替える現象についてはほとんど報告されていない。テナガショウジョウバエDrosophila prolongataは顕著な性的二型を示し、雄の前脚のみが肥大・着色している。雄は発達した前脚を使って雌の腹部を激しく叩くLeg vibrationを行い、その刺激によって雌の交尾受容性を高めていることがわかった。一方で、Leg vibrationによって生じる音に周囲の雄が反応し、求愛していた雄から雌を横取りする現象が見られた。このようなライバル雄による傍受のリスクを避けるように、Leg vibrationを用いない求愛方法で交尾に至る雄も存在し、その割合は単独求愛時よりもライバル雄存在下で増加することがわかった。以上のことから、テナガショウジョウバエは雄間の競争関係がもたらすコストと利益とのバランスにしたがって求愛行動を切り替えていることが示唆された。社会的条件による代替配偶戦術としてライバル雄による干渉を回避するような求愛方法を用いる例は、昆虫では初めて確認された。


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