| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-163 (Poster presentation)

生態系モデルを用いた統合的沿岸域管理手法の構築

*阿部博哉,門谷茂,岸道郎(北大院・環)

沿岸域は陸域からの淡水・栄養塩負荷や開発行為,漁業活動,外洋との海水交換等の影響を強く受け,環境の変化が大きい場所である。近年,広域的な視点を持ち,陸と海のつながりを考慮しながら流域を一体のものとして捉えようとする統合的沿岸域管理ICZMの視点が注目されている。本研究では,北海道東部に位置する亜寒帯汽水湖(厚岸湖及び火散布沼)を対象とし,統合的沿岸域管理の実現のために生態系モデル(3次元物理‐生態系結合モデル)を用いて,どのような検討を行うことができるかについて具体例を示すことを目的とした。今回,1)河川負荷と水底質・生物生産,2)二枚貝養殖と水底質,3)海草藻場と水底質・生物生産について,環境を仮想的に変化させたときの生態系の応答についてそれぞれ評価した。

河川負荷と水質の変化について検証するため,火散布沼へ供給される淡水量を現況と比較して2倍にしたところ,沼内の塩分は低下したが,アサリの生息には問題ないと考えられる範囲であった。

二枚貝養殖量と水底質環境について検討するため,厚岸湖では湖内で養殖されているマガキの養殖密度を現況の4倍,0.25倍,火散布沼ではアサリの生息密度を0.25倍にしてそれぞれ計算を行った。アサリの密度を減少させた場合,摂食圧の低下により水柱のChl-a濃度は増加した。一方,間隙水中のNH4濃度はアサリの排泄量の減少により低下した。

厚岸湖のアマモ場の影響について把握するため,アマモ場が存在しないケースについて計算を行った。その結果,水柱の栄養塩濃度が大幅に増加し,水柱のChl-a濃度もそれに応じて高い値を示した。一方,底生微細藻類の現存量には大きな変化は見られなかった。

本モデルを用いることで,様々な環境変化に対する沿岸生態系の応答について定量的に評価することができ,生態系モデルICZMの有効なツールとなりうることが示された。


日本生態学会