| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-068 (Poster presentation)

トキの再導入個体群の存続可能性分析

*山村則男,二股栄莉,前川勇貴(同志社大学・文化情報),永田尚志(新潟大学・CTER)

トキは日本において野生絶滅しており、現在新潟県佐渡島に生息しているトキは中国から贈呈・供与された個体を繁殖・放鳥して野生下に再導入した個体群である。この個体群の存続可能性について、永田・山岸(2011) は中国の個体群パラメータを用いて存続可能性分析を行った.中国のパラメータ値を達成できれば放鳥をやめても存続可能であること、巣立ち率と1歳までの生存率が存続に大きな影響を与えることを示した.佐渡島では2012年から3年間連続して野生繁殖が成功したので,これらのパラメータを用いて新たに分析を行った.

モデルは誕生・死亡確率過程であり、雌雄および1歳の若鶏と2歳以上の成鳥を区別した.巣場所の制限を考慮して繁殖ペア数の上限を環境容量K とした.確率変動は (1)人口学的変動 (2)1歳までの生存率の環境変動を考慮し、50年後の絶滅確率を1000回のシミュレーションによって求めた.(2) については、3年間の生存率の実現値を等確率にしたものと平均値がそれと一致する線形連続確率密度を用いた.

3年間の繁殖成功率(繁殖ペアのうちヒナを羽化させたペアの割合)の平均はf =0.30 であり、この値を用いると、放鳥をやめた場合の絶滅確率は80%以上となった.絶滅確率を5%以下にするには、人口学的変動のみを考慮したとき、実現値環境変動を加えたとき、連続値環境変動を加えたときそれぞれにおいて、f を0.4, 0.45, 0.47 まで向上させる必要があることが分かった.これらの値は、K =40以上では影響を受けないが、K =10, 20 の値では、中国のパラメータ値 f=0.64 が達成されたとしても5%以上の絶滅確率になることが分かった.

放鳥をやめても個体群を存続させるためには、今後、繁殖成功率を高めることと少なくとも40以上の繁殖ペアを確保できる環境条件の維持が望まれる.


日本生態学会