| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-070 (Poster presentation)

高山性ミジンコの紫外線耐性:DNA損傷と行動解析から

*岩渕翼(東洋大・生命),小黒芳生(東北大・ 生命),山口弘子(東北大・生命),日出間純(東北大・生命), 占部城太郎(東北大・生命)

高山生態系は環境変化に最も脆弱な生態系の一つと考えられており、高山生物がどのように高山環境に適応しているのかを理解することは保全や今後の変化を予測する上で重要である。例えば紫外線は一般的に標高とともに強くなるため、高山に生息する生物は平地のものに比べて強い紫外線にさらされており、水生生物も例外ではない。タナカミジンコは、標高1000m以上の湖沼でしか見つかっていない高山種である。したがってこの種は紫外線に対する防御機構を持っている、または紫外線によるダメージから速やかに回復する能力を持っている可能性が考えられる。これらの仮説を検証するために、UV-Bが照射された時に生じるDNAの損傷度およびそれに対する回復速度を平地種と比較したところ、両者とも平地種との違いは認められなかった。一方、紫外線暴露後の運動活性を比較したところ、タナカミジンコの方がより弱い紫外線量で運動活性が低下することが明らかになった。この要因には紫外線暴露で生じるもう一つの大きな問題である活性酸素の生成量が他種よりも多いことや、紫外線暴露に対する応答として行動を変化させていることが考えられる。さらに別の実験では、タナカミジンコは平地種よりも酸性環境に耐性があることが明らかになった。高山湖沼は一般に、腐植酸の影響で酸性になることが多いため、この結果は酸性条件の方が強紫外線条件よりもミジンコ類にとってより強力な選択圧であることを示唆しているかも知れない。これら一連の結果は、逆の見方をすれば、タナカミジンコの生息域がなぜ高山に限定されているのかという新たな疑問を呼び起こすことにつながる。発表ではこれらの疑問を含めて総合的な議論を行う。


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