| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-082 (Poster presentation)

琉球列島のトゲサンゴSeriatopora hystrixの遺伝的多様性と集団遺伝構造

*中島祐一(OIST), 井口亮(沖縄高専), 西川昭(琉球大), 長田智史(沖環科), 上野大輔(琉球大), 御手洗晢司(OIST), 酒井一彦(琉球大)

近年の人為的影響による急速な環境変動は、生物相豊かなサンゴ礁に危機を及ぼしている。琉球列島ではサンゴ個体群が壊滅的な状況に置かれており、回復が進んでいない海域が存在する。サンゴ個体群の維持・回復機構を考える上で、幼生分散の程度を推定するために集団遺伝学によって個体群間の遺伝的なつながりの程度を把握することが重要である。本研究では、高感度DNAマーカーであるマイクロサテライトマーカーを用いて琉球列島の10地点において、幼生保育型サンゴの一種であり、近年琉球列島で生息数が激減しているトゲサンゴSeriatopora hystrixの集団遺伝解析を行った。琉球列島の10地点からトゲサンゴの枝を少量採取してDNAを抽出して、マイクロサテライトマーカー7座で遺伝子型決定して得られた183群体の遺伝子型データからクローン多様度、遺伝的多様度Allelic richness、遺伝的分化係数FSTを求め、さらにベイズ法クラスタリングを行った。183群体において、多座遺伝子型は177個であった。このことは、トゲサンゴの個体群は主に有性生殖によって維持されていることを示す。さらに、遺伝的多様度は一部の地点で極端に減少していた。地点間の遺伝的分化は大きく(FST = 0.057-0.710, all Ps < 0.05)、水深や地理的距離に相関しないことがわかった。琉球列島のトゲサンゴは地理的距離に従わない3つの遺伝的クラスターに分けられ、今後の分類の再検討が必要であることが示唆された。さらに同じクラスター内でも地点間の遺伝的分化は大きく、地域間の幼生分散がほとんど無いことが推定された。したがって、将来的に今の地域個体群も絶滅する可能性が考えられる。


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