| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-091 (Poster presentation)

有明海湾奥部におけるサルボウ浮遊幼生と着底稚貝の動向

吉野健児, 藤井直紀, 濱田孝治(佐大・低平地沿岸センター)

有明海湾奥部はかつてタイラギやクマサルボウ等二枚貝の有数の漁場であったが、近年は毎夏に生じる貧酸素水塊による攪乱等の環境悪化で有用二枚貝はほとんど姿を消している。しかしながら2010年、夏期に貧酸素が発生していたにもかかわらず、貧酸素終息後の9月にサルボウ貝の大量加入がみられた。サルボウは湾奥部の泥底を代表する重要な大型二枚貝であり、貧酸素が発生する7~8月が主要な繁殖期である。この結果は毎夏の貧酸素水塊以外にも大型二枚貝の棲息数に重要な役割を果たしている要因が存在することを示唆する。

本研究では上記の大量加入を説明する仮説の一つとして浮遊幼生の供給量の多寡そのものが加入に大きく影響しているかどうかを検証するため、2012年から2014年の3年間のサルボウ浮遊幼生の動向および水質・着底期の稚貝量と底質環境について湾奥部で調査した。また諫早湾でも同様の調査を行った。

その結果、幼生の出現ピークは年によって異なり、これは主にその年の水温によって規定されていると考えられた。その一方、溶存酸素濃度や塩分、水温と幼生量との間には明確な関連はみられず、着底稚貝においても底質の泥分や酸化還元電位との関連はみられなかった。しかしながらサルボウの着底稚貝量と幼生供給量の間にも明確な相関がみられなかった。

今回の結果からは幼生供給量の多寡がサルボウの加入の主要な支配要因である証拠はつかめなかった。しかしながら2010年のような加入イベントはそれ以降生じておらず、浮遊幼生・稚貝密度ともに他の環境要因との明確な関連もみえない。今後もサルボウの加入を支配する要因解明に向けて、幼生・稚貝の動向についてより綿密な調査を行っていく必要がある。


日本生態学会