| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-165 (Poster presentation)

河川横断構造物がニホンウナギの遡上に与える影響

*板倉光(東大院新領域/大海研),海部健三(中央大法),木村伸吾(東大院新領域/大海研)

ダムや堰などの河川横断構造物は,ニホンウナギの移動を阻害する可能性があるが,その実態は不明である.本研究では,水温履歴の相違を利用した耳石の酸素炭素安定同位体比(δ18O,δ13C)分析に基づき,ニホンウナギの天然加入個体と放流個体(養殖された個体)を識別する方法を開発し,利根川水系で採集された個体に応用することで,河口堰が河口から遡上してくる天然加入個体の移動に与える影響について検討した.

試料として,大分県安岐川,鹿児島県土川川,岡山県児島湾・旭川水系,静岡県今川から採集された天然加入個体(n=86)および鹿児島県,静岡県,千葉県の養鰻場から入手した養殖個体(n=314)を用いた.各個体の耳石から,沿岸域加入後に形成された部分のみを採取し,δ18Oとδ13Cを測定した.δ18Oとδ13Cを用いて非線形判別分析を行い,判別式を作成した.利根川水系の河口堰よりも下流の下流域(n=9)および上流の中流域(n=42),印旛沼(n=28)から採集された個体の耳石の同位体比を測定し,上記の判別式から天然加入個体と放流個体に判別して両者の河川内分布を調べた.

天然加入個体と放流個体のδ18Oとδ13Cから判別分析を行った結果,正判別率は98.8 %と高く,本手法は由来判別に有用であることが確認された.得られた判別式を用いて利根川水系から採集された個体を天然加入個体と放流個体に判別したところ,河口堰の上・下流どちらの水域で採集された個体においても天然加入と判別された個体が確認され,印旛沼で採集された個体の2割程度が天然加入個体と判別された.これらの個体は河口から遡上後に利根川河口堰を通過して移動してきた可能性があり,本河口堰はニホンウナギの上流への移動をある程度可能にしているものと推察される.


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