| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-213 (Poster presentation)

外来種スイセンハナアブの色彩多型:色彩型の性差について

須島充昭(東大・総合文化)

外来種スイセンハナアブMerodon equestrisはヨーロッパ原産のハナアブで、体節ごとに毛色が異なる色彩多型が知られ、マルハナバチ類に擬態していると考えられている。演者は昨年度の大会において、スイセンハナアブの色彩多型はイギリスで34型が知られており、そのうち18型程が日本の侵入個体群(調査地点は東京、横浜、埼玉、仙台、2014年までの総捕獲個体数は834)で見られることを報告した。本種の擬態のモデルとされているマルハナバチ類(Bombus属の各種)は、主に北半球に分布する北方系のハナバチで、一般に南下するほど、また標高が下がるほど分布する種数は減少する。演者のこれまでの調査において、各調査地点で記録されたマルハナバチは東京が1種(コマルハナバチ)、横浜と埼玉が2種(コマルハナバチとトラマルハナバチ)、仙台は4種(以上の2種に加え、クロマルハナバチ、オオマルハナバチ)である。地点ごとにスイセンハナアブの色彩型とマルハナバチの色彩や発見頻度を比較することにより、スイセンハナアブの色彩型に適応的な変化(マルハナバチとの類似性の低い色彩型の淘汰など)が生じているかどうかを観察できる可能性がある。一方、イギリス産をもとに定められたスイセンハナアブの色彩型の識別基準(Conn 1972)は、他の地域でもそのまま適用可能であるかどうか、まだ十分には検討されていない。今回、イギリスでは雌だけに見られると記録されている色彩型のいくつかは、日本では両性に見られることが分かった。本種の色彩型の性差は、色彩に関わる複数の遺伝子の一部が雌でしか働かない、または雌と雄で働き方が異なるために生じると推測されている(Conn 1972)。今回の演者の研究は、こうした働きに地域差が生じている可能性を示している。


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