| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T02-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

系統的独立比較法から明らかになったチャルメルソウ属生態的種分化の共通メカニズム

*奥山雄大(科博・植物園),岡本朋子(森林総研)

被子植物は30万種を越える多様性を誇り、陸上生態系の基盤をなす。特に送粉者との関係は花の多様性をもたらし、同時に近縁植物種間での生殖隔離メカニズムとしても働くため、適応放散のカギを握ると考えられてきた。さらに近年、匂いを含めた送粉者に対する信号が被子植物の種分化の引き金として注目されつつある。しかし、これらの形質を支配する遺伝基盤についてはほとんど分かっていないため、実際にこれらに分断化淘汰が働き、種分化に寄与したとする証拠はほとんど得られていない。

日本で著しい多様化を遂げたチャルメルソウ属では、口吻の長いミカドシギキノコバエと、口吻の短いキノコバエという2タイプの昆虫の間での送粉者の転換が繰り返し起きており、さらにこの送粉者の違いは実際に野外での生殖隔離を担っている。すなわち、この送粉者の転換こそがチャルメルソウ属の主要な種分化メカニズムであると考えられる。

そこでこの送粉者の転換を引き起こした植物側の形質を明らかにするために、系統的独立比較の手法を用いたところ、花香成分のひとつであるライラックアルデヒドが特定できた。さらに、送粉者を用いた行動実験および電気生理学的実験から、この物質こそが送粉者の特異性を支配している要因であることを明らかにした。現在はこの発見を足がかりに、ライラックアルデヒド生合成経路の遺伝子を複数特定し、これらに実際に分断淘汰が働いた証拠も得ている。このように、チャルメルソウ属は分子系統樹を道しるべとして生態的種分化の共通要因を明らかにし、さらにその遺伝的基盤までも明らかにできる類い稀なモデル系である。

ところで、今後超並列DNAシーケンサーを用いたゲノム系統学的手法が標準となるため、個体群レベルでの進化を考える際にも系統的独立比較法の有用性はますます高まってくると考えられる。最後にこの展望についても述べたい。


日本生態学会