| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T02-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

性表現の適応的な進化:フジツボ類における系統比較

遊佐陽一(奈良女大・理)

性表現の進化がなぜ,どのように生じたのかということについては,動物では十分調べられていない。ダーウィン(1852)はフジツボ類の研究を行い,雌雄同体の種だけでなく,雌雄同体に矮雄が付く種や雌に矮雄が付く種があることを発見したが,その理由については後世への課題とした。その後,繁殖集団が小さい種では,雌雄同体間の精子競争が緩和されて矮雄が進化することがチャーノフ(1987)によって理論的に示されたが,実証研究を欠いていた。そこで,有柄フジツボ(エボシガイ)類を用いて,この理論を検証するために系統比較を行った。

まず,18S rDNA塩基配列を用いて,48種のフジツボの系統関係を最尤法およびベイズ法で推定した。次に,直接観察と文献に基づいて,これらの種について,単独である個体の割合(集団サイズの指標)と性表現のデータを集めた。そして,BayesTraitsを用いて,これらの形質間の相関を最尤法およびベイズ法の系統比較によって調べた。

その結果,フジツボの系統の中で,雌雄同体から矮雄や雌がそれぞれ複数回進化したことが明らかになった。また,単独個体率と矮雄の出現,単独個体率と雌の出現との間にそれぞれ有意な相関が存在した。これらの結果は,最尤法およびベイズ法の両方で支持された。

以上より,フジツボでは集団サイズが小さくなると雌雄同体から矮雄や雌が進化することが示された。その後,今まで雌雄同体と考えられてきた種で,集団サイズの小さい場合に矮雄が発見される例が複数見つかってきたことからも,この結論の正しさが裏付けられる。


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