| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T03-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

食物網・物質循環を駆動する寄生生物

鏡味麻衣子(東邦大・理)

病原生物の生物量は,個体数が多くても体サイズが小さいため,他の生物に比べ微々たるものと考えられてきた.しかし,この生態ピラミッドの概念をくつがえすような事例が数々報告されつつあり.病原生物が食物網の構造や物質循環に大きな影響を及ぼす事が明らかになっている.

病原生物は,動物の餌として生態系の中で重要な役割を担っている.また、病原生物が本来誰にも捕食されないような生物に寄生し、物質流の経路を改変することもある。病原生物と捕食者の捕食-被食関係は,感染症の拡大や抑制にも重要な意味をもつ.

病原生物が,宿主の形質を変化させることで物質循環に間接的に影響をあたえる場合もある.宿主の形質のうち摂食に関わる形質が変化すると,生態転換効率だけでなく分解速度など生態系機能にまで影響が及ぶ.また、病原生物自身が生態系エンジニアとして機能する,もしくは病原生物が生態系エンジニアとして機能している宿主の形質を変えることにより,生態系機能に影響をあたえる.

食物網解析において、病原生物そのものだけでなく,病原生物間の捕食-被食関係(高次寄生やギルド内捕食を含む)を含めると、すべての生物間のつながり(リンク)の大部分に病原生物が組み込まれることが明らかになっている.病原生物を含む食物網の結合度(connectance)は,捕食者と被食者だけの食物網よりも顕著に高くなり,食物網の安定性維持に貢献していると指摘されている.

生態系の健全性と病原生物に関係があることが提唱されている.また、地球温暖化や富栄養化,生息地の改変といった環境変動にともない,病原生物が増加することが予想されている.遺伝子解析技術により、これまで困難であった病原生物の検出や多様性の把握が容易になり,感染症の野外での動態把握が可能となれば,感染症の拡大など社会問題への解決の糸口になるとともに,生態学の発展にもつながる可能性を秘めている.


日本生態学会