| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T05-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

内部ゆらぎによって駆動される群れの運動能:アライメントルールによらない定向性の創発

村上久(神戸大)

沖縄県某海岸沖、アミアイゴの群れ。密集のあまりその輪郭は滑らかで金属のような光沢を放ちながら、海底の岩肌を這うように進む。個体の集合体でありながら、その運動は一個の生き物を連想させる。

動物の群れがこのように人に特別な印象を与えるのは、その密集度もさることながら個体が整列し全体としての秩序を保っているからだろう。従来の群れモデルではそのほとんどにおいて「向きの平均化」の規則が用いられている。この規則によって個体は近傍内にいる他個体と向きを平均化することで揃え、目的通り全体として整列した群れを得られる。しかし向きの平均化は実際の群れで実証されているわけではない。むしろその反対かもしれない。近年アメリカの研究チームが少数個体の魚の群れ行動を調べたところ、彼らは向きの平均化を行っているとする明示的な証拠は得られなかったとし、群れの整列は他の規則から結果として得られることを示唆している。

我々は本発表で、向きの平均化を用いない、個体間の運動の予期に基づくモデルを提案する。このモデルでは個体は自身の身体の向きに沿って次の運動を示唆する複数の可能性ベクトルを持ち、その可能性ベクトルが個体間における予期に使われる。個体間で可能性ベクトルの終点が重なったとき、その場所は優先すべき移動先としてそこを指示する一個体が移動する。この運動を非同期的に繰り返すことで密な群れが実現する。例えばヒトの歩行者は日常的な往来において他者の運動を予期することによって事前に衝突を回避していることが明らかにされているが、本モデルではこのような予期を想定している。我々はこのモデルが、向きの平均化を用いずとも結果として極めて整列した群れを実現できることを示し、他のモデルと比較することで群れにおける予期について考えたい。


日本生態学会