| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T06-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

趣旨説明:都市の生物多様性を軸にした生態学と社会経済,政策の融合にむけて

上野裕介(国総研)

現在,日本の都市生態系(社会-生態システム)は大きな転換点を迎えている。日本は人口減少と都市の縮退期に入り,都市の再編・再整備を目指す動きが本格化しつつある。この機に,都市の生物多様性保全についても社会-生態システムの視点から捉え直し,生物多様性を適切に保全する術を今後の都市計画や地域戦略,市民や企業の活動に反映していくことが重要だろう。

本企画集会では,まず生態学者の立場から『都市の生物多様性研究の特徴と研究フィールドとしての面白さ(1.三上らの発表)』について紹介する。一方で,そもそもなぜ『多様性に乏しい都市の生物相』を守る必要があるのだろうか,という疑問も湧く。これに対する答えの一つとして『都市化に伴う自然体験の喪失が引き起こす,人々の健康や福利,環境意識の低下(2.曽我ら)』や『幼少期の自然体験の喪失が,その後の保全行動への理解の低下や実際の取組み不足につながる(3.今井ら)』ことを紹介し,都市の生物多様性の意義について考える契機としたい。

しかし現実に,人間が生態系の主要構成員である都市生態系(社会-生態システム)において生物多様性保全を進めるためには,地域住民の間で『地域の生態系の現状や利用に関する知識を獲得・共有することが重要(4.土屋)』であり,同時に『人間の多様なニーズや価値観との調整を図り,多機能性を付与する都市デザインや戦略を構築することが必要(5.加藤)』になってくる。さらにそれらの知見を『国土政策の中で位置づけ,長期的な視点で政策や社会づくりに反映(6.曽根ら)』させるとともに,『地域の特長を活かした都市のブランディングや民間との協働(7.相川)』の視点も入れ,プランを練る必要がある。

これらの議論を通じ,次世代に向けた持続可能な社会形成に役立つ提案へとつなげたい。


日本生態学会