| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T06-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物多様性に対する市民意識:保全行動を規定する心理的要因

*今井葉子(国環研) ,上市秀雄(筑波大・システム情報系),高川晋一(日本自然保護協会),角谷拓,高村典子(国環研)

愛知目標の一つとして、様々な立場の人々の保全行動への参加促進が挙げられている。しかし、生物多様性や生態系の保全の行動をしたいと思ってはいても、実際には行動していない市民は多い。本研究では、市民の保全行動と関連の強い心理的要因を明らかにすることを目的に、実際に行動している市民(保全行動を実施している団体所属者)と行動していない市民の意識の比較を行った。

市民の生物多様性に対する意識や認知の実態を把握するため、社会心理学分野の手法を用いた複数の質問項目から成るWeb調査を設計した。全国の一般市民を対象とした調査(2011年実施、N=5225)では、保全行動への賛同率は高いものの、実際に行動を行っている者は少なく、保全行動に関する意識は、「身近な人が行動していることの認知」を高めた場合に高くなる可能性が示唆された。一方、実際に行動している市民を対象とした調査(2014年実施、N=236)の結果、「身近な人が行動していることの認知」は低く、「地域や動植物への愛着感」や「自己効力感(自らの行動の効果の認知)」、「自然環境への危機感」が高い傾向が示された。また、幼少時代を過ごした地域の自然環境数(複数選択)の平均は、全国一般市民より行動をしている市民の方が多かった。

これらの結果は、保全の対象や行動に関する主体的な感情(愛着、役に立つと思う、何とかしたい気持ちなど)を持つことが、個人が実際に行動をするかどうかの意思決定に関与している可能性を示す。調査対象とした実際に行動している市民の大半は5年あるいは10年以上活動を継続しており、このような主体的な感情ははじめから高いのか、行動を継続した経験により後から獲得したのかについては、今後の調査で検証する必要がある。


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