| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T09-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

昆虫のリターン率の種間差が植物の進化にどう影響するのか?:個体の行動からネットワークをつなぐ

*鈴木美季(筑波大院・生命環境)

生物の世界では、適応的であると言われながら、系統内の一部でしか見られない形質がしばしば存在する。古い花の色を変えて株上に長く維持する「花色変化」も、花粉の運搬効率を高める適応形質とされる一方で、限られた植物種でしか見られない理由についてはわかっていない。私達はこの謎を解く手がかりを得るため、ニシキウツギ(花色を変える「変化型」)とその近縁種タニウツギ(花色を変えない「不変型」)の間で、花形質と訪花昆虫の反応を比較した。

まず、同じ植物園内で両種を比較したところ、変化型は蜜を減らした古い花を色を変えて維持する一方、不変型は蜜を減らした古花を色を変えずに維持することがわかった。つまり、変化型は蜜を減らした古花を、色を変えて訪花昆虫に知らせるのに対し、不変型は色で知らせることなく古花の蜜を減らすのである。さらに、変化型の株は不変型より頻繁にマルハナバチの訪問を受けていた。よって私達は、花ごとの期待報酬量を色で知らせる花色変化は、空間学習能力が高いマルハナバチの再訪問を促すことが必要な状況でのみ進化的に有利になるのではないか、という仮説を提唱した。

実際に自生地を調査したところ、不変型への訪花者の65%以上は小型ハナバチとアブで、マルハナバチの訪花割合は変化型より低かった。さらに、昆虫グループ間で株への再訪問(リターン)率を比べたところ、上記の仮説通りマルハナバチは高い値を示した一方、小型ハナバチやアブの値はほぼ0であった。ただしアブの中でもコガシラアブだけは例外で、しばしば高い再訪問率を示した。以上の結果は、変化型は株への固執性が強いマルハナバチ等の昆虫への適応である一方、不変型はそうした習性を持たない昆虫への適応であることを示唆する。訪花者の行動習性を詳しく知ることは、送粉ネットワークにもとづく花と動物の結びつきを理解する上で、今後ますます重要となるだろう。


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