| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T15-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

松くい虫,マツノザイセンチュウ研究から生態学を覗く

中村克典(森林総研東北)

マツノザイセンチュウは、日本、韓国、中国、台湾、さらにはポルトガルのマツ林で甚大な枯損被害をもたらしているマツ材線虫病の病原体として世界的に有名な線虫である。しかし、原産地の北米大陸で、マツノザイセンチュウは他の原因で衰弱したマツを資源にひっそりと暮らしている。ユーラシア大陸から日本にかけては近縁なニセマツノザイセンチュウが土着しており、これまた衰弱したマツを資源にひっそりと暮らしている。生きたマツにどしどし侵入してこれを枯らし、枯死木内で爆発的に増殖してはその大半が死滅する原産地外でのマツノザイセンチュウの生き方は、彼ら本来の生き方ではないようだ。

木から木への移動の手段を持たないマツノザイセンチュウは、昆虫を乗り物に使う(昆虫嗜好性)。適切なタイミングで枯れ木から昆虫に乗り込み、適切なタイミングで昆虫から新しい生息場所となる木へと移行するには洗練された”技”が必要なはずで、この技について我々が解明できているのはまだその一端に過ぎない。

乗り物にされる昆虫にとって、木を枯らすようなものでなかった土着線虫との関係は片利共生だったはずである。ところが、人間がよその国から持ち込んだ線虫がたまたま木を枯らす能力を持っていたため、線虫を運んだ昆虫は自らの子孫の生息場所を確保できるようになり、その関係は相利共生となった。よく言われる「マツノザイセンチュウとマツノマダラカミキリの巧みな共生関係」なるものの実態は、偶然の産物と言えそうだ。

というような、どっぷり病害虫防除ネタの松くい虫研究の毎日の中で「これって生態学的かも?」と感じてしまったマツノザイセンチュウにからむ話題のいくつかを紹介したい。


日本生態学会