| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第62回大会(2015年3月,鹿児島) 講演要旨


日本生態学会大島賞受賞記念講演 2

選択伐採が森林生態系に及ぼす長期的な影響:択伐後50年を経た熱帯雨林を観る

山田 俊弘(広島大学大学院総合科学研究科)

 東南アジアでは商業伐採が森林劣化の深刻な原因となっている。熱帯地域では現在、伐採後の二次林が保護林よりも広大な面積を覆っており、さらに残された熱帯林のほとんどが生産林の指定を受けていることから考えても、熱帯林の生態系サービス機能、特に生物多様性を保護するためには、これら伐採後の二次林を効果的に保護、管理しなければならない。しかし伐採後の熱帯二次林では、材積量の回復といった林学的な視点からの研究はあるものの、生物多様性の回復といった生態学的な視点からの研究は非常に限られているのが現状である。そこでマレーシアネグリスンビラン州、パソ保護林にある伐採後50年が経過した古い二次林に調査区を設置し、10年以上観察を続け、二次林と伐採されたことのない天然林との比較生態学的研究を行った。

 この古い二次林は現在も概ね1.7%/年の成長率で現存量を回復していた。現存量は伐採50年後には約300t/haに達し、天然林の平均現存量310t/haに迫るものであった。従来低地熱帯雨林での伐採後の現存量回復には100年程度かかるとの試算がなされていたが、50年程度で天然林の現存量に近い値まで回復することが示された。

 一方、森林構造の指標として林冠高と樹木のサイズ構造に注目すると、どちらも二次林と天然林の間に有意な違いがあった。伐採後50年を経ても、二次林には天然林で見られる巨大木は発生しておらず、大きさの揃った小ぶりの樹冠によって林冠が、天然林より低い位置に構成されていた。また林床の光環境を見ると、二次林は天然林に比べて“むらなく明るい”光環境を持っていた。これは上述の森林(林冠)構造の両森林間の違いと関係していることが予想された。

 森林動態を見ると二次林は天然林よりも早い直径成長と、遅い加入速度を見せた。これは二次林の明るい林床と伐採時の土壌かく乱に原因があると考えられた。二次林と天然林の構成種を比べると、両者に共通して出現した種は全体のわずか56.7%であった。また種多様性は二次林が天然林よりも有意に低いことも分かった。

 以上のように、伐採後50年が経過したとしても、二次林は天然林とはっきりと異なる生態学的特性を持つことが分かった。森林は伐採後、二次遷移により回復することが信じられているが、現存量の回復に比べて、生物多様性や森林動態、森林構造の回復には、非常に長い時間がかかることが明らかになった。

日本生態学会