| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) D2-10 (Oral presentation)

植食者を介した頻度依存選択がハクサンハタザオの細毛多型の維持を促す

*佐藤安弘(京大生態研), 工藤洋(京大生態研)

野外集団において、植物の植食者に対する防御形質には遺伝的多型がよく見られる。近年、植食者との相互作用が植物の防御形質に対して強い選択圧をもたらすことが明らかにされてきたものの、どのようにして防御形質に多型が維持されているのかは未だよく分かっていない。本研究では、植食者を介した見かけの相互作用が、負の頻度依存選択を介して、ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)のトライコーム多型(有毛型と無毛型)の維持機構となるかを検証した。まず、アブラナ科専食のダイコンサルハムシ(Phaedon brassicae、以下ハムシ)が優占する野外集団において、直径1 mの円形区を複数設置し、それぞれの型の食害を調べたところ、調査区内に無毛型が多いほど有毛型の食害率が減少する傾向が見られた。さらに、これらの区画を複数年追跡して調査したところ、少数派の頻度が中程度に復帰することが明らかとなった。このことは有毛型と無毛型の二型が集団内で維持されていることを意味する。次に、野外圃場において、有毛・無毛型の頻度とハムシの在・不在を操作した実験を行ったところ、ハムシが存在する条件下でのみ、食害率と繁殖に有毛・無毛型間で少数派有利な状況が見られた。ハムシ不在下では、頻度に関わらず無毛型の繁殖が良く、少数派有利な状況は見られなかった。以上の野外調査と実験の結果から、植食者を介した見かけの相互作用が負の頻度依存選択を介して細毛の二型の維持機構となることが強く示唆された。


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