| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) F3-40 (Oral presentation)

海底湧水が魚類の食性,成長に与える影響~水温と栄養の効果から

*小路淳・宇都宮達也・秦正樹・冨山毅(広島大),杉本亮(福井県大),堀正和(瀬戸内水研)

【はじめに】地下水は河川水に比べてリンなどの栄養物質に富み,水温は年間を通じて安定している.地下水が海底からわき出すことにより,浅海域の生物生産や生物多様性を高めている可能性が高い.本発表では,主として広島県において実施している調査の結果をもとに,海底湧水と魚類群集・生産の関係を報告する.さらに,飼育実験の結果に基づいて,地球温暖化による水温上昇が,調査海域の優占種であるマコガレイ稚魚の成長・生残に与えうる影響と,海底湧水がもたらしうる緩衝効果について考察する.

【材料と方法】2014・2015年3月~7月に広島県竹原市において水温・塩分観測,魚類および餌料生物(表在性生物,埋在性生物)の採集を実施した.食物連鎖を明らかにするために,魚類の胃内容物解析と炭素・窒素安定同位体比分析を行った.マコガレイ稚魚の飼育実験を広島大学竹原ステーションで実施した.

【結果・考察】野外調査で採集された魚類のうち,優占種はマコガレイとイシガレイであった.マコガレイ稚魚の分布密度は海底湧水噴出域周辺で高かった.胃内容物解析および安定同位体比分析の結果から,マコガレイの主要餌料生物である底生生物を介して,陸域起源栄養物質が利用される栄養フローの存在が示唆された.飼育条件下でマコガレイ稚魚の体重増加量は18℃区で最高であり,生残率は27℃以上で低下した.以上の結果より,マコガレイ稚魚の成長・生残に水温が影響し,成長至適水温は18℃前後で,27℃以上では長期間の生残が不可能であると考えられた.水温が年間を通じて比較的安定している海底湧水は,高水温化にともなうマコガレイ稚魚の分布域北上や死亡を軽減する可能性がある.


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