| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) F3-44 (Oral presentation)

水田におけるコモリグモ科種組成の地理的勾配に沿った変化

*田中幸一,馬場友希,楠本良延(農環研)

水田においてクモ類は、イネ害虫の天敵としてよく知られ、また環境保全型農業の効果を反映する指標生物としても有効である。一方、水田内のクモ群集は、農法とともに気候や景観などの環境の影響を受け、両者の交互作用の結果、農法がクモ類に及ぼす影響は環境によって異なる可能性がある。これらのことを解明するため、水田に生息する主要なグループを対象として、水田の周辺環境および農法が種組成や個体数に及ぼす影響について調査・解析を進めている。これまでに、コモリグモ科においては、キクヅキコモリグモとキバラコモリグモの2種が優占するが、緯度が高いほど、また年平均気温が低いほどキバラコモリグモの割合が高くなることを報告した。一方、2種は県別にみると全国に分布することから、この地理的傾向は単純に気候だけでは説明できず、種間相互作用が関係する可能性を示唆した。これらの傾向とそれをもたらす要因を明らかにするため、北海道から沖縄県にいたる全国各地で調査を行ってきた。コモリグモ科の総個体数については、北海道と沖縄県(石垣島)では少ないこと、本州および九州では一定の地理的傾向は示さないことが明らかになった。種組成については、全国的な広域スケールにおいては、概ねこれまでに得られた結果と同様であった。一方、栃木県で行った調査では、2種の比率が地域によって異なったので、このデータを用いて、キバラコモリグモの個体数に及ぼす緯度、景観、他種個体数の影響を、一般化線形モデルで解析した結果、キクヅキコモリグモの個体数が負の影響を及ぼすことが明らかになった。この結果から、2種間には何らかの種間相互作用があると考えられる。


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