| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-03 (Oral presentation)

カツオクジラの立ち泳ぎ採餌

*岩田高志(東大・大海研), 赤松友成(水研セ・中央水研), 佐藤克文(東大・大海研)

タイ王国のタイ湾に生息するナガスクジラ科の一種であるカツオクジラBalaenoptera edeniは、立ち泳ぎをしながら水面で口を開け、餌の魚が口内に入ってくるのを待つ、待ち伏せ型の採餌様式を取ることが報告されている。立ち泳ぎ採餌の報告例は、他のナガスクジラ科の動物や他の海域でのカツオクジラでさえこれまでに無かった。彼らはなぜ立ち泳ぎ採餌をするのだろうか。本研究では、タイ湾のカツオクジラの採餌戦略を明らかにするために、彼らの立ち泳ぎ採餌を目視観察および動物装着型記録計を用いて記録し、採餌海域周辺の海洋環境を観測した。

野外調査を2014-2015年にかけてタイ王国のタイ湾で実施した。クジラの詳細な行動や映像を記録できる動物装着型記録計を吸盤で装着し、自然脱落後に回収した。また、クジラの立ち泳ぎ採餌が目視により確認できる場所において、深度1 m、3 m、5 mの溶存酸素濃度を計測した。

クジラの採餌海域周辺の溶存酸素濃度は、深度1 mで7.54 mg/L、3 mで1.92 mg/L、5 mで0.24 mg/Lであった。水深3 m以深では貧酸素の環境が広がっているため餌のカタクチイワシ類は、水面付近にしか生息できないことが考えられた。目視観察から、立ち泳ぎ採餌中のクジラが下顎を使って水面を叩く様子や、前方もしくは後方へ動く様子、その場で回転している様子が観察された。クジラに装着した記録計の映像から、彼らが立ち泳ぎの際に尾びれと胸びれを動かしている様子が記録された。クジラの採餌中、餌の魚は、遊泳方向がランダムとなり、さらに水面に飛び出すというパニック状態となっていた。以上の結果から、タイ湾のカツオクジラは、水面にしか生息できない、またパニックに陥りやすいといった餌生物の習性を利用し、立ち泳ぎ採餌という戦略を取っている可能性が考えられた。


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