| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-07 (Oral presentation)

何が放鳥トキの生存に影響を与えるのか?

*永田尚志1,山田宜永2,中津弘1,油田照秋1(1:新潟大CTER, 2: 新潟大・自然科学)

佐渡島でトキの再導入を目的として、2008年〜2015年に13回の放鳥でのべ215羽が放鳥されている。トキの再導入を成功させるためには、まず、放鳥個体が生存し、繁殖していくことで、自立個体群を形成していく必要がある。環境省から提供された飼育下の情報を元に、個体情報データベース、飼育履歴データベースを構築し、放鳥したトキの生存に影響を与える要因を解析した。2015年6月までに放鳥された196羽を解析に用いた。放鳥後のトキの生存に影響を与える従属変数として、発信機の有無、年齢、性別、育雛形態、孵化形態、出生施設、出身家系、MS/DRD4等の遺伝子型を用いた。放鳥から半年間の生存率に影響をあたえる要因、生存時間に影響を与える要因をKaplan-Meier推定法によるノンパラメトリックモデルを用いて選別した。次に、コックス比例ハザードモデルを用いて、共変量の影響を解析した。これらの生存解析にはRのsurvivalパッケージを用いた。放鳥個体の生存には、性別、年齢、発信機の有無、育雛・孵化形態等、多くの変数が影響を与えていた。放鳥時2歳以上の個体は1歳個体より死亡率が高く、年齢が放鳥直後の生存に影響を与えていた。生存時間に影響をおよぼす共変量として、発信機、育雛形態、孵化形態、性別が選択され、発信機装着は生存時間を短くし、自然育雛個体は生存時間が長くなることがわかった。発信機装着は、放鳥後1年間の生存率に高めてはいなかったが、生存時間は有意に短くなっていた。これは、発信機装着個体が冬に猛禽類に選択的に捕食されているためと考えられた。また、自然育雛由来の雌の方が早く繁殖を開始し、繁殖成績も高くなる傾向があることより、親鳥(または、里親)が育てた個体のほうが、放鳥後の適応度が高まることが明らかになった。


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