| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-08 (Oral presentation)

昆虫の翅多型における密度依存性の進化:数理モデルにより生理学と生態学の融合を目指す

上岡駿宏*, 巌佐庸(九大,理,生物)

密度依存的移動分散は移動率が密度依存的に変化することである。既存のほとんどの理論研究では、パッチ内での資源の動態や生物の成長過程は取り入れていない。

本研究では、翅多型を示す昆虫の成長過程と、昆虫による資源消費を考慮して密度依存的分散の進化を解析した。昆虫の翅多型はアブラムシやウンカなどにみられる。これらは2つの翅型を持ち、感受性期に高密度を経験すると飛翔可能な移動型に、低密度を経験すると飛翔できないが繁殖力が大きい繁殖型になる。また、トビイロウンカの密度に応じた翅型決定は個体群間により異なる(Iwanaga et al 1985)。これは、同種内でも進化的条件の違いが密度に応じた翅型決定に影響することを示唆している。

環境変動の大きさの異なる条件で、どのような密度に応じた翅型決定様式が進化するかを調べた。仮定は:移動型と繁殖型をもつ単為生殖の生物を考える。移動型は移動後に繁殖し、繁殖型は移動せず繁殖する。繁殖力は繁殖型が移動型より大きい。生物はパッチ上の資源を消費し、幼虫から成虫に成長する。成虫の翅型は幼虫時のパッチの密度により決まる。幼虫はデフォルトでは繁殖型になるが、密度の一次関数を仮定した速度hで移動型に変わる。筆者らはhの傾きと切片の進化を調べた。資源の環境収容力は大小2値の間で一定周期で変動する。

(1) 環境変動がある程度大きいと、hの傾きは正に、切片は負に進化した。これはある程度の密度までは移動せず、それより高くなると移動速度が急速に増えることを示す。(2) 変動が小さいと、傾き、切片ともに0に近づいた。(3) 両者の中間で、変動がある程度小さくなると初期条件依存的な双安定状態を生じた。

本講演では、生理学的過程を進化モデルに組み込む方法についても議論したい。


日本生態学会