| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-17 (Oral presentation)

アリにおける社会寄生の化学戦略:擬態か隠蔽か?

*里居伸祐, 巌佐用 (九大, 理)

擬態は、被食の回避や自らの捕食効率改善のために、生物界に広く見られる戦略である。情報を得るため主に嗅覚を用いる生物には嗅覚の擬態が見られ、化学擬態と呼ぶ。代表的な例として、アリ等の社会性昆虫を宿主とする寄生者がいる。アリはコロニーの仲間を体表の化学物質で認識するため、それを似せることで仲間だと誤認させて巣に侵入する。化学擬態には、宿主の形質を真似る戦略(mimic)の他に、化学物質量を薄くする戦略(cryptic)が観察されている。アリは養育の過程でコロニー特有の匂いを獲得していくため、cryptic戦略は若いワーカーとの判別がつかず排除が難しいと考えられている。一見有利そうなcryptic戦略であるが、実際に確認されている寄生種にはmimicを示す種が多く、cryptic戦略の例は少ない。

擬態に関してはさまざまな理論研究がなされてきたが、化学擬態2つの戦略の進化を考察した研究はなかった。本講演では、どのような状況で2つの擬態戦略がそれぞれ進化してくるのかを解明するために理論研究を報告する。

宿主も寄生者も、2つの要素のブレンドからなる匂い形質を持っているとする。2つの要素のブレンドの比が近く、自分より匂いが薄ければ受け入れ、そうでない場合は拒否とする関数を用いてアリの仲間認識を表現した。さらに、寄生者の周囲には同種の別コロニーが存在すると考え、別コロニーの匂い形質のばらつきは匂い形質の大きさに比例するとした。そのようにして宿主に受け入れられれば利益、別コロニーを拒否出来なければ損失と考え、寄生者の適応度とした。解析したところ、宿主の認識能力が低い時はcryptic戦略のみが有効で、宿主の認識能力が高くコロニー間の競争が強い時はmimic戦略のみが進化することがわかった。この結果にもとづいてアリの寄生者について知られている擬態戦略について考察する。


日本生態学会