| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-04 (Oral presentation)

高山市における絶滅した集団由来のサクラソウ個体の探索、および由来推定に重要な条件

*吉田康子(神戸大院・農・食資源セ),中澤宏介(高山市役所),本城正憲(東北農研),大澤良(筑波大院・生命環境)

岐阜県高山市清見町には、サクラソウ野生集団(清見集団)が存在していたが、高速道路建設により絶滅した。しかし、現在も町内の民家ではサクラソウが多数栽培されており、清見集団由来のサクラソウが生存している可能性がある。本研究では、保全・復元事業に資することを目的として絶滅した清見集団由来の個体の探索を試みた。

2012年と2013年に清見町の民家で栽培されているサクラソウを探索し、由来の聞き取り調査および葉の採取を行った。SSRマーカー8座を用いて各個体の遺伝子型を決定し、ソフトウェアGeneClass2を用いてアサインメントテストを行った。アサインメントテストによる個体の由来推定には、割り振り先に由来元の集団が含まれていることが望ましいが、清見集団はすでに絶滅している。そこで、同じ高山市内に現存する野生集団(松本集団)が清見集団と遺伝的距離が近いと想定し、松本集団に割り振られる確率が一番高いジェネットが存在するかを調べた。

葉を採取した個体の遺伝子型から、長花柱花9ジェネット、短花柱花6ジェネット、花型不明1ジェネットの計16ジェネットが見つかった。松本集団を含む日本全国の32 集団の遺伝子型に基づくアサインメントテストを行ったところ、12ジェネットはどの集団にも割り振られず、残り4ジェネットは埼玉県の上尾集団に最も高い確率(1.7~7.8%)で割り振られた。聞き取り調査において清見由来である可能性が高いと考えられた4ジェネットも松本集団に割り振られなかった。

以上の結果から、本研究では清見集団由来の個体を特定することができなかった。地理的距離は近いが遺伝的に分化している場合などは、由来元の集団が絶滅すると個体の由来推定が難しい可能性が示唆された。


日本生態学会